2009年11月14日土曜日

『デザイン思考の道具箱』

合政策学部2年 池田 俊

書籍:『デザイン思考の道具箱』


◆課題設定までの方法論

 本書では、課題設定やフィールドワーク、ユーザーテストなど創造のプロセスにおける一連のアクションをそれぞれ「道具」と定義し、創造の方法論を「道具箱」に見立てている。

まず、本書で描かれる「創造のプロセス」について要約する。(まゆ子さんが詳細を書かれているので詳細は省略)

<プロセスの上流>

Step1:哲学・ビジョン構築(課題設定)

Step2:技術の棚卸し・フィールドワーク

Step3:コンセプト/モデル策定(プロトタイピング)

Step4:デザイン

<プロセスの下流>

Step5:実証(ユーザーテスト)

Step6:ビジネスモデル策定

Step7:オペレーション

 この一連の流れが「モノを作る上でのガイドライン」であり、正しい順序で一つ一つの道具を使わなければプロセスが機能しない、と述べられている。しかし以前KDPのメーリングリストでも取り上げたように、私はここに疑問を感じてしまう。1回目のCase Studyを通して考えると、初めに哲学・ビジョンを仮設定しても、具体的な方向性はフィールドワークとブレストを繰り返すことで幾様にも広がりを見せ、そこで初めて明確な哲学・ビジョンの策定が行われる。

 1回目のCase Studyの中間発表でも議論になったが、重要なのはプロセスの順序を守ることではなく、思考レベルと経験レベルの両方の領域を、どちらかに偏る事無くバランス良く蓄積することである。ただ、何度も行き来する必要は必ずしも無いと思う。思考と経験の両方において十分な考察と結果を得られれば、その回数や順序は重要ではないのではないだろうか。


「経験の拡大」の方法論

○エスノメソドロジー(現象学的社会学)

 顧客の意見を聞いても顧客中心の意見にならない、この一言にはとても共感出来た。ユーザーにとって使い勝手の悪いものがあったとしても、無意識のうちに身体的に適応してしまっている場合が多い。それ故、質問されたユーザーは普段具体的に意識していることを一般化することでしか応えられない。モノづくりのヒントは「使い手の無意識なニーズ/ウォンツ」である。これを明確に把握する為に「経験の拡大」というプロセスを活用することになる。

 ここで、本書ではエスノメソドロジー(現象学的社会学)という方法論が採用されている。人と人との相互行為(インタラクション)を重要視するもので、リサーチの対象となる人たちとともに同じ時間を過ごすことで彼らの世界を内部から知ろうとする「参与観察」の方法論である。プロダクトに関係する人たちを「師匠」と位置づけ、それに自分たちが「弟子」入りし、数時間観察を行うというもの。


○1回目Case Studyで行ったフィールドワークとの比較

 この方法論は一回目のCase Studyで私たちが実践したフィールドワーク(街を歩き、対象となるプロダクトを観察し、関係者にヒアリングを行う)とは方法論が若干異なる。私たちはヒアリングを多用した感じが否めないが、それでも様々な情報を得ると共に、どういった要素がそのプロダクトに求められているのかを或る程度把握することが出来た。しかし本書では、ユーザーとの関係構築において「調査者/被調査者」「エキスパート/新人」など複数の在り方があったとしても、ニーズとウォンツを区別して顧客の求めるものをデザイン出来るのは師匠/弟子モデルだけ、と述べられている。ヒアリングに頼るだけでは、潜在的なニーズ/ウォンツというものは出てこないのかもしれない。可能であれば、この参与観察という手法をぜひ一度試してみたいと思った。


◆総括

 総じて見て、幅広い分野におけるデザイン思考というよりは、筆者独自の活動分野におけるデザイン思考といった感が否めなく、敷居の高さを感じた。方法論がステップごとに明確に説明されているが、KDPでの活動にそれをそのまま取り入れても機能しないのではと思う部分が多くあった(特に課題設定のプロセス)。

 本書における方法論に対して疑問を投げかけられたのは、まさに実際に並行してケーススタディを行いながら読み込んだが故だと思う。デザイン思考の入門書としてだけでなく、記された方法論自体に疑問を投げかけながらKDP独自のそれを模索することが出来た点でも大変勉強になった。

 今後は、疑問を持った方法論に対する漠然とした自分たちの意見、その不確実性をより深化し、具体的な「KDPの方法論」としてまとめ上げていきたい。

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