2009年11月16日月曜日
書評 デザイン思考の仕事術
デザインとは、人の生活の在り方を提案することだ。単にモノを飾る方法を考えることではなく、使う人の視点を研究し尽くし、プロトタイピングを繰り返した上で実践されるものなのだ。技術だけがあっても、それがモノ、ひいては人に結びつかなければ意味がないのだ。人にとって必要なモノの中身があり、それに付随するものとして機能・技術がある。
本書の内容で特に印象に残ったパートがある。モノが経済上のみのものになってしまい、実際に使われる人々の生活、つまり文化から引き離されてしまっているという話だ。人と製品を離してしまうから、モノの需要がついてこない。結果、モノ余りと言われてしまう。筆者の言うデザイン思考を経たモノは、使う人を常に想定し、文化に密着しているから需要が生まれる。本書に書かれたデザイン思考のプロセスは確かに時間がかかるし大変かもしれない。しかし、このプロセスを経るか経ないかで、顧客の満足度は決定的に変わるのではないだろうか。P&Gの理念にも、「消費者はボス」とあるが、消費者の調査を徹底したイノベーションは結果として勝利をもたらすのである。
この本が与えてくれたヒントはいくつもあるのだが、そのうちの一つは知識を増やすことの大切さだ。それも、ただインターネットやテレビ、本を読んだだけでわかったつもりになってはいけないということである。つい、わからないことがあったとき、ググって「よし、わかった」と思ってしまうことは多い。だが、それはわかったつもりになっただけで、実際外に出て体験しなくてはわかったことにはならない。デザインに必要な発想は、たくさんの知識が絡み合い、反応を起こして出てくるものだが、そのためには他分野に渡って様々なものに触れていくことだ。今の自分にはそれがとても少ない。今すぐに自分一人の知識を4倍にすることは出来ないが、それを可能にしてくれるのがグループワークだ。方法論だけ知っても「わかった」ことにはならないと筆者は言う。
本当に理解するためには、人からなにかを吸収し、自分でもなにかを乗せていきながら、実践してみること。これに尽きるのだと感じた。
2009年11月15日日曜日
デザイン思考の仕事術/棚橋弘季
以下、この本を読んでの全体的な感想、および気づきを個別のセンテンスを参照しながら述べます。
それぞれのパートにおけるデザイン思考的アプローチのしかたをさまざまな言い換えによって表現しつつ、なぜそのようなアプローチをとるべきかの理由付けも丁寧に解説してくれるため、デザイン思考の入門書としては分かりやすいものになっている。
ただ、さまざまな言い換えや捉え方を提示してくれるため、どれも理解しようとするとデザイン思考の概念自体の面白さに引っ張られて、かえって複雑に解釈してしまう危険性もあるのでその部分については注意が必要。
また、デザイン思考を一般論的に語りつつも、ところどころ著者自身が確立している方法論(KJ法やペルソナ法)のみを基にして論を展開しているように見えてしまう部分もある。そのあたりはなぜこのようなアプローチをとるのかという理由について詳しく見ていけばいいと思う。
ピックアップセンテンス:
- 「わかっていること」の外に出る
何度もいいますが「わかる」ことが重要ではありません。むしろ、わかっていることの外に出ないといけない。固定概念の外に出るのです。フレームにあてはめ るというのは自分の内に留まることです。当たり前のことを当たり前だと思ってわかったような気になるのでは現場で観察する意味がありません。
デザインとは、ニュートンが木から落ちるリンゴを見て万有引力の存在を発見したように、観察した対象の背後に潜む見えない関係性の糸を発見し、それを改善する行為。そのようなabduction的推論過程を経ることで新たな価値を創造することが可能になる。p.77 デザイン思考の「情報収集術」:情報と情報化
それゆえデザインプロセス初期の「OBSERVATION / LISTEN」のフェーズが最も重要になってくる。現場へ足を積極的に運び、五感を使って観察する。そこでは、無理に何かをわかろうとするのではなく、好奇心にまかせて、「よくわからないけどたぶん関係ありそう」というようなレベルの気づきまで含めて収集する。
- すべてを統合する視点をみつける
単に情報を分類し、グループ分けするのではなく、異なる情報間に関係性を発見することで、個別の情報からは見えてこなかった発想が生まれてくるところにKJ法の良さはあります。複雑系の科学でいわれる創発現象のひとつである相転移と同じようなことを、情報の群れを対象にした推論の過程で起こすのです。
- 計画的に失敗する
計画の段階からさまざまなプロトタイプを使って最適解を見つける過程を組み込んでおくのです。結果的に失敗するのではなく、計画的に失敗してエラーがなぜどういう場合に起こるかを見つけていくのです。
デザインとは、経験をつくる活動。人の心がどう感じるかというのは非常に不明確で議論していてもラチがあかないから、さっさとカタチにして経験のプロトタイプをつくりだしてしまうのが一番。経験のデザインは、失敗を繰り返しそれを少しずつ改善していくことでしか最適解には到達できない。考えてからカタチにするのではなく、考えるためにカタチにする、という発想の転換が必要。失敗を恐れずに積極的にカタチにしていけるようなグループ環境のマネジメントをしていくことが求められる。
IDEO Human-Centered Design ToolKitを読んで
IDEO Human-Centered Design ToolKitを読んでの要約と感想を記載致します。
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Human-Centerd Design(HCD)とは、社会に対して様々な新しいソリューションを生み出すためのプロセスおよび一連のテクニックの事だと定義されている。「Human-Centerd」という言葉は、人間(ソリューションを提供する相手)中心の発想や思考から始めるという事の重要性を意味しているが、人間中心の発想が重要な理由は、まさに人々こそが何が最も良いソリューションなのかを知っている「専門家」であるからだ(They are the ones who best what the right solutions are)。
人間中心に考える際には、Desirability・Feasibility・Viabilityという3つの視点が重要だ。具体的には、「人々が望んでいる事は何か」「何が技術的・組織的に実現可能なのか」「資金的に何が実現可能か」を理解する事を通して、最終的なソリューションのDesirability・Feasibility・Viabilityを検討していく必要性がある。そのためには、人々のニーズを聞き(Hear)、そのニーズを応える革新的なソリューションを作り(Create)、そのソリューションを資金的にも持続可能な形で遂行する(Deliver)するというHCDプロセスを実践する必要があると述べられている。
また、個人的に大変興味深かったのは、イノベーションを促進する環境をつくるためのルール(a few rules for creating an environment to facilitate innovation)の部分だ。具体的には、
・MULTI-DISCIPLINARY TEAMS
・DEDICATED SPACES
・FINITE TIMEFRAMES
という3つのルールである。
MULTI-DISCIPLINARY TEAMS:敢えて様々な専門領域の人々を集める事によって、複雑で解決が困難な問題であったり、既に解決が試みられている問題に対して、様々な異なる視点から捉える事ができ、思ってもみなかったような素晴らしいソリューションを生み出す事に繋がる。
DEDICATED SPACES:現場からのインスピレーションを得る事ができ、ブレインストーミングに没頭でき、プロジェクトの進捗を常に把握できるような、プロジェクトごとのスペースを持つ事が重要である。
FINITE TIMEFRAMES:デッドラインや具体的なタイムラインを設ける事で、チームのモチベーションが向上し、課題に対する集中が高まる。
Human-Centerd Design ToolKitを読んで、全体を通して感じたのは、デザイン思考を考える上で重要なポイントは、フィールドワーク・プロトタイピング・コラボレーションの大きく3つではないかという事です。現場でのフィールドワークによって、現場の人たちの間で起こっている事柄を経験し、実際に経験したことを解釈する通りに直接的に扱うことで人々のニーズに関わる質的なデータを獲得する。素早いプロトタイピングを何度も重ねる事で、単なるデータから手で触れる具体的な形へ反映させていく。また、文中でも指摘されているように、様々な領域の人々とのコラボレーションが最終的な成果物の出来を左右する要因になるという事です。
「Building to Think」という言葉が文中に何度か出てきましたが、「グループ活動の中で作ること自体によって考えていく」、という事がデザイン思考の重要なポイントの一つである気がしました。
designとは。
「デザイン思考の仕事術」
「SUBJECT TO CHANGE」
岸本和也担当分
この2冊を最近読んだ上での、自分なりのデザイン論を改めて考えたいと思います。(「SUBJECT TO CHANGE」は金先生が以前紹介されていたので読んでみました。)
自分の中での「design」の定義は “より多くの人の潜在的なニーズに訴えるもののつくり”とします。
ひとつひとつ解説を加えます。
- “より多くの人"
望むことなら全人類の問題を解決したいところですが、残念ながらそれは制限されています。(例えば先進国と途上国の暮らしの違いなど)ここでは(ターゲットの中で)より多くの人、ということを指します。
年代や世代で明確にターゲッティングするのが従来のマーケティング手法だとすると、デザイン思考ではthoughtless actsや潜在的なニーズを中心にターゲッティングし、ターゲットを特定すると言えます。(つまりは人間の行動でセグメントを分ける)とはいえ、従来のマーケティングの様に顧客層ベースでのアプローチ法もあります。(IDEOのKeep the Changeなど)
ここで活かされるのがフィールドワークなどを通じた観察→理解のプロセスだと考えます。定量性より定性性を重視します。ある程度定量的にモデル作りが行われるペルソナも、結果的にそのペルソナならいかに行動するかという定性的な面を重視すると言えるでしょう。
- “潜在的なニーズ”
例えば、ユーザーがプロダクトを手に取った際、あるいはサービスを利用する際の「しっくりくる」「わかってる」という感じはユーザーの潜在的なニーズを満たしていると言えます。
このニーズを満たすにはthoughtless actsの理解、または、焦点のブレが無い(言い換えるならば、シンプルで機能を一言で説明できる)ことが必要だと考えています。
iPod以前にたくさんのmp3再生機器は存在しました。初代iPodも発売当初それほど高機能ではありませんでした。しかし、結果としてみれば、iPodの一人勝ちです。これは「いつでもどこでも好きな音楽を」というブレないコンセプトに基づいて、ソフトウェアによる管理や楽曲購入、プレイリストの作成などの機能を適切に盛り込んだ結果と言えます。
- もののつくり(ML上の議論の繰り返しになります)
物理的にしろ、非物質的にしろ、半強制的に従わせるものです。(クリエイティブ・コモンズで知られるサイバー法の専門家、ローレンス・レッシグの4つの区分のうちの「アーキテクチャ」と同義です・不明な方はググっていただけると色々出てくると思います)
「半強制的」と上述しましたが、否定的な文脈ではなく、肯定的にこの強制力を用いれればと考えています。例えば、ユニバーサルデザインは子供や年配の方、障害者の方も問題なく使えるように設計されています。また、IDEOの「Keep the Change」もアーキテクチャ(プログラム)によって自動的に端数が貯金されますが、基本的にはユーザーに不快感を与えない、それどころか「便利だ」と思わせるものです。
この何気ない「便利だ」という気持ちはデザインされたものが潜在的なニーズを満たすが故にユーザーが持つものではないでしょうか。
また、実際にプロダクトやサービスが完成した後、一人でも多くの人の潜在的なニーズを満たすために改良を加えていく。そのためにプロトタイピングを行うと考えます。これはそもそも定性的な面を重視していたデザインの部分に定量的な面からの検証を行うことだと捉えています。定量的検証を行うためにプロトタイピングは何度でも行われるべきで、検証後すぐに改善をするというアジャイルなアプローチが必要とされます。
現在、おそらくアイデアの発散-収束で考えると収束の部分が一番方法論で行き詰まっているように感じます。これは“潜在的なニーズ”の所で述べたブレないコンセプトが早い段階で落とし込めていないためではないでしょうか。ブレないコンセプトを定め、吟味し、プロダクト・サービスの核にした後はひたすらアジャイルにKJ法、プロトタイピング、テスト、改善を繰り返すべきなのではないでしょうか。
2009年11月14日土曜日
道具箱との比較
池田憲弘
「ひらめきを計画的に生み出す デザイン思考の仕事術」 を読んで感じたことをアップします。
僕自身は既にゼミの方で「デザイン思考の道具箱(以下、道具箱と略す)」を読んでいたのですが、基本的に「道具箱」よりも「デザイン思考の仕事術(以下、仕事術)」の方が分かりやすいと感じました。というのも、「道具箱」に比べて「仕事術」の方がデザイン思考の全体像というものを上手く説明できているからです。
武山ゼミでは、「道具箱」や他の2冊(HCD TOOL KIT・「ペルソナ作ってそれからどうするの?」棚橋 弘季 (著))を参考にしながら、今年度の前期にデザイン思考を用いて、小さなプロジェクトをグループに分かれて実行しています。ここで、各グループがつまづいた点が以下の3点でした。
1.師匠・弟子モデルというインタビューの方法
2.ペルソナ作成における、ペルソナのレベル感・作り方
3.魔法のシナリオ(本書ではコンテキストシナリオ)作成
この「仕事術」では上の3つの方法論について、以前読んだ本よりも分かりやすく書いてあり、デザイン思考に始めて触れた人でも実行に移せるような内容になっていると思います。特に2・3のペルソナ、シナリオについては誰でも1度は戸惑う点だと思うので、ちゃんと理解しておいた方が良いでしょう。
ただし、一部は「道具箱」の方が分かりやすいと感じた部分もあります。ワークモデル分析などの部分は「仕事術」では軽く流して書いてありますが、「道具箱」では例となる図が書いてあるので、より分かりやすいと思います。イメージに引っ張られる可能性も否めませんが・・・。部分によって複数の本を使い分けた方が良いと感じる部分もあります。それだけ、まだデザイン思考が方法論として確立していない部分があるのだと思いますが、「仕事術」は今までの本に比べると大分良い構成に仕上がっています。
ただ、やはりデザイン思考は実践から教訓を得るのが一番早いはずなので、この本を読んで、エッセンスやスタンスを学び、あまり方法論に囚われすぎずに実際に何回かプロジェクトを回してみるのが1番良い方法だと思っています。
『デザイン思考の道具箱』
総合政策学部2年 池田 俊
書籍:『デザイン思考の道具箱』
◆課題設定までの方法論
本書では、課題設定やフィールドワーク、ユーザーテストなど創造のプロセスにおける一連のアクションをそれぞれ「道具」と定義し、創造の方法論を「道具箱」に見立てている。
まず、本書で描かれる「創造のプロセス」について要約する。(まゆ子さんが詳細を書かれているので詳細は省略)
<プロセスの上流>
Step1:哲学・ビジョン構築(課題設定)
Step2:技術の棚卸し・フィールドワーク
Step3:コンセプト/モデル策定(プロトタイピング)
Step4:デザイン
<プロセスの下流>
Step5:実証(ユーザーテスト)
Step6:ビジネスモデル策定
Step7:オペレーション
この一連の流れが「モノを作る上でのガイドライン」であり、正しい順序で一つ一つの道具を使わなければプロセスが機能しない、と述べられている。しかし以前KDPのメーリングリストでも取り上げたように、私はここに疑問を感じてしまう。1回目のCase Studyを通して考えると、初めに哲学・ビジョンを仮設定しても、具体的な方向性はフィールドワークとブレストを繰り返すことで幾様にも広がりを見せ、そこで初めて明確な哲学・ビジョンの策定が行われる。
1回目のCase Studyの中間発表でも議論になったが、重要なのはプロセスの順序を守ることではなく、思考レベルと経験レベルの両方の領域を、どちらかに偏る事無くバランス良く蓄積することである。ただ、何度も行き来する必要は必ずしも無いと思う。思考と経験の両方において十分な考察と結果を得られれば、その回数や順序は重要ではないのではないだろうか。
◆ 「経験の拡大」の方法論
○エスノメソドロジー(現象学的社会学)
顧客の意見を聞いても顧客中心の意見にならない、この一言にはとても共感出来た。ユーザーにとって使い勝手の悪いものがあったとしても、無意識のうちに身体的に適応してしまっている場合が多い。それ故、質問されたユーザーは普段具体的に意識していることを一般化することでしか応えられない。モノづくりのヒントは「使い手の無意識なニーズ/ウォンツ」である。これを明確に把握する為に「経験の拡大」というプロセスを活用することになる。
ここで、本書ではエスノメソドロジー(現象学的社会学)という方法論が採用されている。人と人との相互行為(インタラクション)を重要視するもので、リサーチの対象となる人たちとともに同じ時間を過ごすことで彼らの世界を内部から知ろうとする「参与観察」の方法論である。プロダクトに関係する人たちを「師匠」と位置づけ、それに自分たちが「弟子」入りし、数時間観察を行うというもの。
○1回目Case Studyで行ったフィールドワークとの比較
この方法論は一回目のCase Studyで私たちが実践したフィールドワーク(街を歩き、対象となるプロダクトを観察し、関係者にヒアリングを行う)とは方法論が若干異なる。私たちはヒアリングを多用した感じが否めないが、それでも様々な情報を得ると共に、どういった要素がそのプロダクトに求められているのかを或る程度把握することが出来た。しかし本書では、ユーザーとの関係構築において「調査者/被調査者」「エキスパート/新人」など複数の在り方があったとしても、ニーズとウォンツを区別して顧客の求めるものをデザイン出来るのは師匠/弟子モデルだけ、と述べられている。ヒアリングに頼るだけでは、潜在的なニーズ/ウォンツというものは出てこないのかもしれない。可能であれば、この参与観察という手法をぜひ一度試してみたいと思った。
総じて見て、幅広い分野におけるデザイン思考というよりは、筆者独自の活動分野におけるデザイン思考といった感が否めなく、敷居の高さを感じた。方法論がステップごとに明確に説明されているが、KDPでの活動にそれをそのまま取り入れても機能しないのではと思う部分が多くあった(特に課題設定のプロセス)。
本書における方法論に対して疑問を投げかけられたのは、まさに実際に並行してケーススタディを行いながら読み込んだが故だと思う。デザイン思考の入門書としてだけでなく、記された方法論自体に疑問を投げかけながらKDP独自のそれを模索することが出来た点でも大変勉強になった。
今後は、疑問を持った方法論に対する漠然とした自分たちの意見、その不確実性をより深化し、具体的な「KDPの方法論」としてまとめ上げていきたい。
デザイン思考と仮説検定
デザイン思考の仕事術について私が感じたことについてここに記していきたいと思う。
デザイン思考とは、問題に対する理解→観察→評価→改良→実現のサイクルによって商品やサービスを生み出すことだと考えている。
一方で私のゼミでは仮説検証型の研究を行っており、これは問題分析→仮説→検証→評価→実証のサイクルによって問題を分析している。
デザイン思考と仮説検証の相違点について述べていくのがおもしろいと考えたので記していきたいと思う。
デザイン思考型と仮説検証型の大きな違いについては問題分析へのアプローチの仕方ではないかと考える。デザイン思考をする際において最も大事なことは外に出ることで問題を分析するということである。視覚的に問題を分析することによって、室内の議論による机上の空論を可能な限りにゼロに近づけていく。外部化することによってビジュアル的に分かりやすくあらわしていく。こうすることによって今までの思考方法では思いつかなかった新しい価値が生まれていく。これがデザイン思考のメリットだと私は考えている。
一方で仮説検証型の問題分析はデータによる数値での検証がベースになっている。文章や写真などあらゆるものをデータ化し数学的な検証を試みていく。それは、時に机上の空論となりうる可能性を大いにはらんでいる。が、論理的に示すことができること、数値的に明らかになるために矛盾が生まれないというメリットがある。
一方で二つには似ているところも多いに含まれていると考えられる。それは問題に対して俯瞰といった方法で問題の検証を試みる点である。デザイン思考型は視覚的に、仮説検証型はデータを俯瞰することによって問題の根源を突き止め解決方法を導き出していくことである。二つに重要なことは既存の概念も重視することと新しい視点を取り入れていくことだとだと考えられる。
またもう一つの共通点は頭の中だけで考えるのではなく、外部化して組み立てることである。ふたつとも形は違えど分かりやすく外部化して考えていく。この点でも二つには共通点を見出すことができる。
このように二つの手法は似ている点も多々多くあり、学んで生かしていきたいことが多く存在している。しかし、片方に偏ることは考えを狭めることにつながるであろう。実生活や社会に出るうえでもどちらかに偏らないように数値と観察両方から支店を持つことが大事なのではないだろうか。
【要約と書評】デザイン思考の道具箱
デザイン思考の道具箱
要約
創造のプロセス
社会的背景や哲学的背景を踏まえた上でのモノづくりへの考え方、作り手の問題意識を表す哲学を考えるところから始めて、具体的に何を作りたいかビジョンを決め、それを持ってFWに行き、どのようなものを作るかコンセプト/モデルを作り、機能やインタラクションを検討しながら実際の設計デザインを行い、実証する。次にビジネスモデルを構築して、実際の運営方法を決定する。
[創造のプロセス]
(上流)哲学・ビジョンの設定→技術の棚卸し・FW→コンセプト・モデル→デザイン
(下流)実証→ビジネスモデル→オペレーション (マーケティングの部分)
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手順の詳細
1.哲学とビジョンの設定:
哲学は人間として社会の為に実現したいこと(問題意識=プロジェクトの軸=信念のようなもの)。ビジョンは哲学を実現するための具体的な欲求「~したい」。哲学は社会的背景や作り手の経験からくる、それをもとに社会的意義をもった価値のあるビジョンをリストする。
2.技術の棚卸しとFW:
研究部門から使いたい技術/自慢したい技術、またはそこから生まれたアイデアのリストを作成し、「~したい」という、問題意識から発生したビジョンのリストに割り振る。そして自分たちの持っている技術で実現可能なものを見つけ、今ある技術では実現できないニーズを知る。FWでは、人の無意識な行動を見つける。当事者にとっては当たり前と思っている日常行動が、それを初めて見た人にとっては不思議なことが多い。その中で実は不便なこと、また問題に対して潜在的に適応している能力(人)を見つける。
3.コンセプト・モデル:
コンセプトとはアイデアをもとにビジョンを実現する為の具体的な方法とその構造を示したもの。実際には、FWの経験をもとにブレスト(アイデア出し)を
行い。出てきたアイデアを組み合わせ、具体的にどんな技術で実現できるかを検討する。モデルはコンセプトに含まれる仕組みを明確にして立体化し、物理的
に体験できる形にしたもの。(つまりプロトタイプ製作)
4.デザイン:
ここでいうデザインはコンセプトモデルを考えた後、それを実際に使えるものにしていく過程のこと。機能を考えながら必要な要素を集め、構造や仕組みをつくっていく。
5.実証:
デザインしたものを実際に製作して、人に使ってもらい問題点を見つける
6.ビジネスモデル構築:
ここは哲学~コンセプトと平行して考える必要があり、社会的背景や時代の流れを先取りする成長戦略、市場の動きを意識しながら進めていく、そしてこの時点で実際に売れる仕組みを考える。
7.オペレーション:
ビジネスモデルを運営する事業主体を決める。
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感想
棚橋さんがこの本で紹介している、デザイン思考=「創造のプロセス」は
研究部門や営業部門、ビジネスモデルという言葉を使っていて、商品開発よりのデザイン思考だと感じました。
デザインシンキングで大事だと思うのは
理論 ⇔ アイデア
具体 ⇔ 抽象
収束 ⇔ 発散
を行き来することだと思っていて、初めてデザイン思考に触れる人にはこの本は短い文章に多くのことが詰め込まれすぎていてあまりお勧めできません。
ペルソナに関しては、IDEOのような実例がないので、学生が作った「ペルソナのストーリー」を紹介されても少しわかりにくいのですが、ストーリーの書き方や、FWの仕方はとても丁寧にされているので参考になると思います。
【書評と要約】イノベーションの達人 発想する会社を作る10の人材
個人的にこの本が読みたかったので、同時にデザイン思考の道具箱もアップします。
この本は、デザインファームIDEOが発展させてきた、組織でイノベーションを起こさせる為に必要な10のキャラクターについて紹介している。
これらの役柄をプロジェクトメンバーが演じることで、各個人が社会環境とチームの業績に独自の貢献を果たせるようになる。
10のキャラクターは人を中心とした10のツールまたは、役割を提示しているだけであって、必ずしも誰かがそれを継続して演じ続けなければいけないというわけではなく、ケースに応じて、メンバーがそれぞれ掛け持ったり、補完するものである。
要約
◯情報収集をするキャラクター◯
刻一刻と変化する社会に組織が対応するために、常に新しい情報を集めてくるキャラクター
人類学者:ヒトの行動を観察し、提供されている製品やサービスが、相互的・感情的にどう相互作用しているかを理解し、組織に新しい情報や発見をもたらす。前に何度も見たことがある行動をまるで初めて目にしたかのように捉え、現場での発見から知識を得ることが出来る。イノベーションの源泉は解決すべき問題が何かを知っておかなければ始まらない。そしてこのキャラクターを演じるヒトは、問題を新しい枠組みで捉えることに長けている。
実験者:常に新しいアイデアのプロトタイプを作りながら、建設的な試行錯誤を繰り返し、それによって新しい情報を得る。この役に必要な資質はひたむきな努力を重ねる情熱と好奇心、思いがけない拾い物に気がつく柔軟性である。様々なアプローチやアイデアを試すのが大好きで、初期の段階での失敗を恐れない。ざっとスケッチに書いたり、発砲パネルをテープでつぎはぎしたり、ビデオ撮影をしたりして、新しいサービスのコンセプトに性格と形状を与える。プロトタイプを常に更新することで、実験者は組織を新鮮に保つ。また、計算されたリスクを積極的におかしていくことで、次のステップに大躍進できる。(プロトタイプを作れないアイデアはなく、それ自体は美しくある必要はない。)
花粉の運び手:異なる業界や文化を探り、そこで発見したことを自分の事業特有のニーズに見合うように変換する。この役割は、ある状況やある業界に賢明なソリューション(花粉)があることを発見し、別の状況に置き換える。すると、それが画期的なソリューションになることを発見する。それを実現する為に必要なのは好奇心と柔軟な頭脳である。多方面に関心が強く、それを隠さないので、多彩な経験が得やすく、一つの経営課題からのアイデアを拝借して、以外な別の状況に活かすのがうまい。
特に関連のなさそうな複数のアイデアやコンセプトを並列させることによって、新たに優れたものを生み出す能力がある。花粉の運び手は学ぶのがうまいだけではなく、教えるのも上手で、知識やアイデアを広める手伝いをする。
◯土台をつくるキャラクター◯
どんなに良いアイデアでも、それらを進めるときには、絶えず時間や関心や資源の取り合いをしなければならない。土台をつくる役割を担う人々はアイデアを進めていくプロセスの中で予算や資源の配分を決めていく。
ハードル選手:イノベーションに至までのプロセスに置かれている多くの障害物を乗り越えたり、やり過ごす。この役割のヒトは少ない資本で多くのことを成し遂げる。プロジェクトがピンチに陥ったとき状況を見極めた上で積極的にリスクを負い、障害を乗り越える。チーム内で最も世間知に長けたメンバーである。
コラボレーター:多彩な集団をまとめあげ、集団の中央から指揮をとり、新しい組み合わせや分野横断的なソリューションを生み出す。このキャラクターは多様な人々の集団に活気をもたらし、多くのヒトをまとめて遂行させる。さまざまな分野の手法を取り入れ、その意欲と能力によって、組織内の分野の壁を越え、人々を各自の専門分野からうまく引っ張りだす。この役割のヒトは個人よりもチームを重んじ、個人的な達成よりも、プロジェクトの完遂を目指す奇特な人である。コラボレーターは社内の懐疑的な意見に対し、最高の防壁になる。プロジェクトに対する反対意見を、うまく反転させ前向きな力に変えてしまう。
監督:才能あるキャストやクルーを集め、彼らの持つクリエイティブな才能を開花させる手助けをする。この役割は目標に向かって常に製作過程を前進させることである。サービスを提供するにも、新しい顧客体験を生み出すにも、ビジネスの基本的な前提をしっかりと認識し、現在の仕事が次のプロジェクトにつながるように、いつも複眼的な視野を持って行動する。
◯実現するキャラクター◯
情報収集をする役割から得られた発見を適用し、土台をつくる役割から委託された権限を利用して、イノベーションを実現させる。
経験デザイナー:機能的だけでなく、表に出てこない潜在的な顧客ニーズに対して、説得力のある経験をデザインする。優秀な経験デザイナーとは製品・サービス・デジタルインタラクション・空間・イベントなどを通じて、顧客と組織、またはメンバーの間に素敵な出会いを演出する。彼らはどんなに平凡に見える製品でも、手を加えることで非凡な体験を創造する。(これがプレゼンテーションで行われれば、クライアントだけでなくメンバーさえも会社のわくわくするような未来を感じることができる)
舞台装置家:プロジェクトチームが最も良い仕事ができる舞台を設営。オフィス環境などの物理的環境を、メンバーの行動や姿勢に影響を及ぼす強力なツールに変換させる。クリエイティブなオフィスは巧みに設計された芝居の舞台や映画のセットのようなものでそれが、作品全体の出来を支える。共同作業を大いに満喫する会社でも、その前提には個人を尊重する。自分の作業空間のカタチや個性を自由に作れる権限を従業員に与えてやれば、楽しくて温かみがあって、刺激的な会社のキャラクターがさらに強まる。
介護人:サービスを超えたケアを顧客に提供する。顧客のニーズを予測し、つねに即応できるようにする。介護人は樓を惜しまず、顧客の理解に努め、各人の関心や要望を聞き出すのがうまい。
語り部:人間の根本的な価値を伝えたり、特定の文化の特質を強固にしたりする説得力のある語りを通じて、内部の士気を高め、外部からの評判も高める。
ビジネスは常に顧客やパートナーに物語を語っている。彼らは新しい試みやひたむきな努力やイノベーションを説得力のある物語にして、私たちのイマジネーションを捉える。
物語を語る7つの理由
ーストーリーテリングは信頼性を築く
ーストーリーテリングは強い感情を解き放ち、チームの絆を深める
ー物語は物議をかもす問題や厄介なテーマについても探索する「許可」を与える
(感覚的なコンセプトも物語として語られると、自然と入ってくる)
ーストーリーテリングはグループの視点に感化を及ぼす
(説得力のある物語はプロジェクトに方向性やインスピレーションを与え、グループの視点を形成する寓話となる)
ーストーリーテリングは主人公をつくる(主人公がペルソナとなり、その人の願いを叶えるようにプロジェクトが動く)
ーストーリーテリングは変革に関わる新しい語彙を提供する(最高の物語には、イノベーション活動に新しい枠組みを与えるフレーズや単語がふんだんに含まれている。物語の言葉はコンセプトを増強し、イノベーションの広まりを加速させる。)
ーよい物語は混沌に秩序をもたらす
感想
本を読みながら、KDPにも10の要素をもった人いるなぁって考えてました。IDEOほど専門的ではないかもしれないけれど、そんなふうになれる種を持っている人はいっぱいいると思います。プロジェクトを組んで、活動していく中で、お互いに役割を気づいてあげられたり、補完できるようになれば、とても素敵なプロジェクトチームになれると思います。プロジェクトが回るのに必要なのはざっくり分けて、「情報収集」と、「作ってみる」と、「管理する」だと思うんです。それ以外の、環境を作る舞台装置家だったり、メンバーをケアする介護人だったりていうのは、気づいた人がどんどんやっていったらいいのかなと思いました。
【書評】デザイン思考の仕事術
「ひらめきを計画的に生み出す デザイン思考の仕事術」 棚橋 弘季 (著)
の感想を書きます。
この本の好きなところは以下の2点です。
1, 「デザイン・デザイン思考」ついて複数の言葉で説明している
デザイン=
「デザインは生活に秩序を提案し実現するもの」
「デザインとは、人自身の生活、生き方、そして、生命としてのあり方を提案する仕事」
「物だけをつくるのではなくて、物を含めた関係性を作ること」
デザイン思考=
「デザイナーの感性と手法を用いて人々のニーズと技術の力を取り持つこと」
「いかにして自分の固定観念、頭のなかのイメージの世界の外に出て異質なものに触れ、それを自身の身体で経験することでまず自分自身が変わり、そして、自分自身の変化を通じて周りも変えて行くための一つの方法」
まだまだ多くの言い回しがあったが、一部を抜粋した。
デザインやデザイン思考は、多くの言い回しで語られることが多いが、どんな方でも、この本のなかで一つは共感できる言い回しがあったのではないか。
僕は特に「自分自身の変化を通じて周りも変えて行くための一つの方法」の部分に共感をした。この本の中でフィールドワークを述べている部分で、著者がフィールドワークの目的を『新奇の発見をすることではなく自分の視点そのものをかけるきっかけを発見すること。「わかる」というのは、そんな風に自分が「かわることを」指します。』と書かれていたところも参照すると、なお、この意味が分かるだろう。
これからのKDPの活動でも、自分本位のデザインにならず「人間中心」にデザインの過程を楽しむことが重要だと思った。人間中心とは、いかにその人の気持ちになって、
2, 思考ベースと経験ベース

僕は、この図がとても好きだ。
ideoのhuman centetred designにも似たような図があったが、それとの違いは、思考ベースと経験ベースの行き来する回数が多いところだ。(ideoはV形)。
一回目のcasestudyを行って思ったことだが、思考ベースと経験ベースの議論はなるべく早い段階で何回も交互に繰り返して行うと良いと思った。
ただ、この図やideoの図を見て思うことは、実際にcase studyを行うと、このような時系列で奇麗に進むことはない。例えば、問題解決の過程で、また更なる問題発見が訪れたりする。このように何度もプロセスを行き来するニュアンスを、うまくダイアグラムで出せると、なお良い図になると思う。
デザイン思考の仕事術
僭越ながら「デザイン思考の仕事術」の感想を述べさせていただきます。
デザイン思考は以下の2つに収束されると思う
1、全身で考えること
2、デザインは創造ではなく、発見
である。
全身で考えること
これはプロトタイプ作成やフィールドワークの重要性のことを言っている。ブレストなどアイデアを考える際には書き出して考えるなど机上で終わってしまいがちだ。その危険性を本書では指摘している。フィールワークによって生の情報から考える。プロトタイプを作りながら考えるという2点は今まで僕自身がやってきた考え方とは異なる部分である。この2点を特に意識しながら「デザイン」というものに取り組んでいきたいと思う。
創造ではなく、発見
もうひとつ改めて認識したのは、デザインは発見する作業だと言うこと。0から発想する創造とは異なる。デザイン人々の潜在的ニーズをモノ、コト、ヒトの関係性から洗い出し、ソリューションを提案する作業である。上記の「全身で考えること」にも通じるが、人々に認識されていない関係性は現場を見たり、本当に意識しないと見えてこない。「顕在化していない関係性」を発見することを強く意識して思考につなげていこうと思った。
デザインされた著作か?
相島雅樹
ロジェ・カイヨワはフランスの社会学や文芸に親しみ、遊びや聖をテーマに著述した人物であり、斯界の権威、アカデミー・フランセーズにも名を連ねた。
彼には、シュルレアリストたちと決別したときの有名なエピソードがある。南米かどこそこの、飛び跳ねる木の実であったと思うが、不思議なお土産をまえにカイヨワはアンドレ・ブルトンらシュルレアリストたちにその木の実をあけて、原理を知ることを主張した。ところがシュルレアリストたちはそれを拒否する。面白いものの正体を明らかにしては面白くない、という主張である。こうしてカイヨワはシュルレアリスト・グループから去った。
棚橋氏はカイヨワを、遊びには制度があり、制約がなければ遊びは遊びとして成立しない、と引く。つまりデザイン思考は、制約のなかに自由な発想を生むための仕事術なのだ、ということだろう。では、博覧強記で知られる知識人カイヨワがクリエイティビティを実践する立場であったかといえば、一抹の疑問を投げかけたい。加えて、ラテン語を中心にした言語思考のピエール・クロソフスキーによる小説に標準フランス語の誤りを指摘して、その受賞に反対したカイヨワには、規範意識の強さをイメージせずにはいられない。シュルレアリストとの対比でいえば、創造性を発揮する態度とは離れた学者としての視点が強く感じられる。
シュルレアリストには、北米ネイティブ・アメリカンのホピ族による工芸の収集や南米との交流をとおして、文化人類学が持つフィールドワークの手法と似た活動をしているが、その態度はあくまで学術的なものとは言い難い。しかし、彼らの作品にはカイヨワにはあまり感じることのないユーモアをある表現が見られる。
IDEOの著作にみられるバランス感覚、クリエイターと学者態度の均衡と比較すれば、棚橋氏の『デザイン思考の仕事術』には、ユーモアを欠いた方法論重視の態度を感じる。巻末で「デザインしすぎないこと」と章が割かれているが、それは書かれるだけでなく、デザインされた著作として示されるべきではないか?ひとが自然とそう行動してしまうような、負荷のない動きへの働きかけこそが重要なデザインの役割なのだから。(と、書いているこの文章はデザインされているのだろうか?)
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書評『ひらめきを計画的に生み出す デザイン思考の仕事術』