2009年11月16日月曜日

書評 デザイン思考の仕事術

私はこれまで、デザインという言葉自体も飾りの意味で捉えてしまっていた。デザインとはそんな狭義なものではなかったのだ。

デザインとは、人の生活の在り方を提案することだ。単にモノを飾る方法を考えることではなく、使う人の視点を研究し尽くし、プロトタイピングを繰り返した上で実践されるものなのだ。技術だけがあっても、それがモノ、ひいては人に結びつかなければ意味がないのだ。人にとって必要なモノの中身があり、それに付随するものとして機能・技術がある。

本書の内容で特に印象に残ったパートがある。モノが経済上のみのものになってしまい、実際に使われる人々の生活、つまり文化から引き離されてしまっているという話だ。人と製品を離してしまうから、モノの需要がついてこない。結果、モノ余りと言われてしまう。筆者の言うデザイン思考を経たモノは、使う人を常に想定し、文化に密着しているから需要が生まれる。本書に書かれたデザイン思考のプロセスは確かに時間がかかるし大変かもしれない。しかし、このプロセスを経るか経ないかで、顧客の満足度は決定的に変わるのではないだろうか。P&Gの理念にも、「消費者はボス」とあるが、消費者の調査を徹底したイノベーションは結果として勝利をもたらすのである。

この本が与えてくれたヒントはいくつもあるのだが、そのうちの一つは知識を増やすことの大切さだ。それも、ただインターネットやテレビ、本を読んだだけでわかったつもりになってはいけないということである。つい、わからないことがあったとき、ググって「よし、わかった」と思ってしまうことは多い。だが、それはわかったつもりになっただけで、実際外に出て体験しなくてはわかったことにはならない。デザインに必要な発想は、たくさんの知識が絡み合い、反応を起こして出てくるものだが、そのためには他分野に渡って様々なものに触れていくことだ。今の自分にはそれがとても少ない。今すぐに自分一人の知識を4倍にすることは出来ないが、それを可能にしてくれるのがグループワークだ。方法論だけ知っても「わかった」ことにはならないと筆者は言う。
本当に理解するためには、人からなにかを吸収し、自分でもなにかを乗せていきながら、実践してみること。これに尽きるのだと感じた。

2009年11月15日日曜日

デザイン思考の仕事術/棚橋弘季

小林です。
以下、この本を読んでの全体的な感想、および気づきを個別のセンテンスを参照しながら述べます。

全体を通しての感想:

  デザイン思考を現状のビジネスの現場にいかす際に(とくに企画立案やプロジェクトをマネージをする立場の人に向けて)役立つように書かれている本。
  それぞれのパートにおけるデザイン思考的アプローチのしかたをさまざまな言い換えによって表現しつつ、なぜそのようなアプローチをとるべきかの理由付けも丁寧に解説してくれるため、デザイン思考の入門書としては分かりやすいものになっている。
  ただ、さまざまな言い換えや捉え方を提示してくれるため、どれも理解しようとするとデザイン思考の概念自体の面白さに引っ張られて、かえって複雑に解釈してしまう危険性もあるのでその部分については注意が必要。
  また、デザイン思考を一般論的に語りつつも、ところどころ著者自身が確立している方法論(KJ法やペルソナ法)のみを基にして論を展開しているように見えてしまう部分もある。そのあたりはなぜこのようなアプローチをとるのかという理由について詳しく見ていけばいいと思う。

ピックアップセンテンス

  • 「わかっていること」の外に出る
何度もいいますが「わかる」ことが重要ではありません。むしろ、わかっていることの外に出ないといけない。固定概念の外に出るのです。フレームにあてはめ るというのは自分の内に留まることです。当たり前のことを当たり前だと思ってわかったような気になるのでは現場で観察する意味がありません。
p.77 デザイン思考の「情報収集術」:情報と情報化
  デザインとは、ニュートンが木から落ちるリンゴを見て万有引力の存在を発見したように、観察した対象の背後に潜む見えない関係性の糸を発見し、それを改善する行為。そのようなabduction的推論過程を経ることで新たな価値を創造することが可能になる。
  それゆえデザインプロセス初期の「OBSERVATION / LISTEN」のフェーズが最も重要になってくる。現場へ足を積極的に運び、五感を使って観察する。そこでは、無理に何かをわかろうとするのではなく、好奇心にまかせて、「よくわからないけどたぶん関係ありそう」というようなレベルの気づきまで含めて収集する。

  • すべてを統合する視点をみつける 
単に情報を分類し、グループ分けするのではなく、異なる情報間に関係性を発見することで、個別の情報からは見えてこなかった発想が生まれてくるところにKJ法の良さはあります。複雑系の科学でいわれる創発現象のひとつである相転移と同じようなことを、情報の群れを対象にした推論の過程で起こすのです。
p.70 デザイン思考の「情報収集術」:情報の圧縮化から発想が生まれる

  デザインのプロセスは、発見の連続である。集めた観察データも、単に整理分類して資料とするのではなく、発想するための材料として使う。視覚化し、並べ換えてそれぞれの関係性を俯瞰することで、妥協点の探り合いにならず、統合的な視点が手に入る。
  デザインとは、人間、モノ、ビジネス、技術、文化など領域横断的な広い視野でものごとを見つめ、その関係性を再構築する作業。デザインプロセスのところどころでこのような全体俯瞰作業を行うことが有効にはたらく。

  •  計画的に失敗する
計画の段階からさまざまなプロトタイプを使って最適解を見つける過程を組み込んでおくのです。結果的に失敗するのではなく、計画的に失敗してエラーがなぜどういう場合に起こるかを見つけていくのです。
p.191 デザイン思考の「問題解決法」:トライアンドエラーを計画的に

  デザインとは、経験をつくる活動。人の心がどう感じるかというのは非常に不明確で議論していてもラチがあかないから、さっさとカタチにして経験のプロトタイプをつくりだしてしまうのが一番。経験のデザインは、失敗を繰り返しそれを少しずつ改善していくことでしか最適解には到達できない。考えてからカタチにするのではなく、考えるためにカタチにする、という発想の転換が必要。失敗を恐れずに積極的にカタチにしていけるようなグループ環境のマネジメントをしていくことが求められる。

IDEO Human-Centered Design ToolKitを読んで

宮村周志です。
IDEO Human-Centered Design ToolKitを読んでの要約と感想を記載致します。

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Human-Centerd Design(HCD)とは、社会に対して様々な新しいソリューションを生み出すためのプロセスおよび一連のテクニックの事だと定義されている。「Human-Centerd」という言葉は、人間(ソリューションを提供する相手)中心の発想や思考から始めるという事の重要性を意味しているが、人間中心の発想が重要な理由は、まさに人々こそが何が最も良いソリューションなのかを知っている「専門家」であるからだ(They are the ones who best what the right solutions are)。

人間中心に考える際には、Desirability・Feasibility・Viabilityという3つの視点が重要だ。具体的には、「人々が望んでいる事は何か」「何が技術的・組織的に実現可能なのか」「資金的に何が実現可能か」を理解する事を通して、最終的なソリューションのDesirability・Feasibility・Viabilityを検討していく必要性がある。そのためには、人々のニーズを聞き(Hear)、そのニーズを応える革新的なソリューションを作り(Create)、そのソリューションを資金的にも持続可能な形で遂行する(Deliver)するというHCDプロセスを実践する必要があると述べられている。

また、個人的に大変興味深かったのは、イノベーションを促進する環境をつくるためのルール(a few rules for creating an environment to facilitate innovation)の部分だ。具体的には、
・MULTI-DISCIPLINARY TEAMS
・DEDICATED SPACES
・FINITE TIMEFRAMES
という3つのルールである。

MULTI-DISCIPLINARY TEAMS:敢えて様々な専門領域の人々を集める事によって、複雑で解決が困難な問題であったり、既に解決が試みられている問題に対して、様々な異なる視点から捉える事ができ、思ってもみなかったような素晴らしいソリューションを生み出す事に繋がる。

DEDICATED SPACES:現場からのインスピレーションを得る事ができ、ブレインストーミングに没頭でき、プロジェクトの進捗を常に把握できるような、プロジェクトごとのスペースを持つ事が重要である。

FINITE TIMEFRAMES:デッドラインや具体的なタイムラインを設ける事で、チームのモチベーションが向上し、課題に対する集中が高まる。

Human-Centerd Design ToolKitを読んで、全体を通して感じたのは、デザイン思考を考える上で重要なポイントは、フィールドワーク・プロトタイピング・コラボレーションの大きく3つではないかという事です。現場でのフィールドワークによって、現場の人たちの間で起こっている事柄を経験し、実際に経験したことを解釈する通りに直接的に扱うことで人々のニーズに関わる質的なデータを獲得する。素早いプロトタイピングを何度も重ねる事で、単なるデータから手で触れる具体的な形へ反映させていく。また、文中でも指摘されているように、様々な領域の人々とのコラボレーションが最終的な成果物の出来を左右する要因になるという事です。
「Building to Think」という言葉が文中に何度か出てきましたが、「グループ活動の中で作ること自体によって考えていく」、という事がデザイン思考の重要なポイントの一つである気がしました。

designとは。

「デザイン思考の仕事術」

「SUBJECT TO CHANGE」

岸本和也担当分


 この2冊を最近読んだ上での、自分なりのデザイン論を改めて考えたいと思います。(「SUBJECT TO CHANGE」は金先生が以前紹介されていたので読んでみました。)


 自分の中での「design」の定義は “より多くの人の潜在的なニーズに訴えるもののつくり”とします。

 

 ひとつひとつ解説を加えます。


- “より多くの人"

 望むことなら全人類の問題を解決したいところですが、残念ながらそれは制限されています。(例えば先進国と途上国の暮らしの違いなど)ここでは(ターゲットの中で)より多くの人、ということを指します。

 年代や世代で明確にターゲッティングするのが従来のマーケティング手法だとすると、デザイン思考ではthoughtless actsや潜在的なニーズを中心にターゲッティングし、ターゲットを特定すると言えます。(つまりは人間の行動でセグメントを分ける)とはいえ、従来のマーケティングの様に顧客層ベースでのアプローチ法もあります。(IDEOのKeep the Changeなど)

 ここで活かされるのがフィールドワークなどを通じた観察→理解のプロセスだと考えます。定量性より定性性を重視します。ある程度定量的にモデル作りが行われるペルソナも、結果的にそのペルソナならいかに行動するかという定性的な面を重視すると言えるでしょう。

 


- “潜在的なニーズ”

 例えば、ユーザーがプロダクトを手に取った際、あるいはサービスを利用する際の「しっくりくる」「わかってる」という感じはユーザーの潜在的なニーズを満たしていると言えます。

 このニーズを満たすにはthoughtless actsの理解、または、焦点のブレが無い(言い換えるならば、シンプルで機能を一言で説明できる)ことが必要だと考えています。

 iPod以前にたくさんのmp3再生機器は存在しました。初代iPodも発売当初それほど高機能ではありませんでした。しかし、結果としてみれば、iPodの一人勝ちです。これは「いつでもどこでも好きな音楽を」というブレないコンセプトに基づいて、ソフトウェアによる管理や楽曲購入、プレイリストの作成などの機能を適切に盛り込んだ結果と言えます。

 

- もののつくり(ML上の議論の繰り返しになります)

 物理的にしろ、非物質的にしろ、半強制的に従わせるものです。(クリエイティブ・コモンズで知られるサイバー法の専門家、ローレンス・レッシグの4つの区分のうちの「アーキテクチャ」と同義です・不明な方はググっていただけると色々出てくると思います)

 「半強制的」と上述しましたが、否定的な文脈ではなく、肯定的にこの強制力を用いれればと考えています。例えば、ユニバーサルデザインは子供や年配の方、障害者の方も問題なく使えるように設計されています。また、IDEOの「Keep the Change」もアーキテクチャ(プログラム)によって自動的に端数が貯金されますが、基本的にはユーザーに不快感を与えない、それどころか「便利だ」と思わせるものです。

 この何気ない「便利だ」という気持ちはデザインされたものが潜在的なニーズを満たすが故にユーザーが持つものではないでしょうか。



また、実際にプロダクトやサービスが完成した後、一人でも多くの人の潜在的なニーズを満たすために改良を加えていく。そのためにプロトタイピングを行うと考えます。これはそもそも定性的な面を重視していたデザインの部分に定量的な面からの検証を行うことだと捉えています。定量的検証を行うためにプロトタイピングは何度でも行われるべきで、検証後すぐに改善をするというアジャイルなアプローチが必要とされます。


現在、おそらくアイデアの発散-収束で考えると収束の部分が一番方法論で行き詰まっているように感じます。これは“潜在的なニーズ”の所で述べたブレないコンセプトが早い段階で落とし込めていないためではないでしょうか。ブレないコンセプトを定め、吟味し、プロダクト・サービスの核にした後はひたすらアジャイルにKJ法、プロトタイピング、テスト、改善を繰り返すべきなのではないでしょうか。

2009年11月14日土曜日

道具箱との比較

「デザイン思考の仕事術」書評
池田憲弘

「ひらめきを計画的に生み出す デザイン思考の仕事術」 を読んで感じたことをアップします。

僕自身は既にゼミの方で「デザイン思考の道具箱(以下、道具箱と略す)」を読んでいたのですが、基本的に「道具箱」よりも「デザイン思考の仕事術(以下、仕事術)」の方が分かりやすいと感じました。というのも、「道具箱」に比べて「仕事術」の方がデザイン思考の全体像というものを上手く説明できているからです。

武山ゼミでは、「道具箱」や他の2冊(HCD TOOL KIT・「ペルソナ作ってそれからどうするの?」棚橋 弘季 (著))を参考にしながら、今年度の前期にデザイン思考を用いて、小さなプロジェクトをグループに分かれて実行しています。ここで、各グループがつまづいた点が以下の3点でした。

1.師匠・弟子モデルというインタビューの方法
2.ペルソナ作成における、ペルソナのレベル感・作り方
3.魔法のシナリオ(本書ではコンテキストシナリオ)作成

この「仕事術」では上の3つの方法論について、以前読んだ本よりも分かりやすく書いてあり、デザイン思考に始めて触れた人でも実行に移せるような内容になっていると思います。特に2・3のペルソナ、シナリオについては誰でも1度は戸惑う点だと思うので、ちゃんと理解しておいた方が良いでしょう。

ただし、一部は「道具箱」の方が分かりやすいと感じた部分もあります。ワークモデル分析などの部分は「仕事術」では軽く流して書いてありますが、「道具箱」では例となる図が書いてあるので、より分かりやすいと思います。イメージに引っ張られる可能性も否めませんが・・・。部分によって複数の本を使い分けた方が良いと感じる部分もあります。それだけ、まだデザイン思考が方法論として確立していない部分があるのだと思いますが、「仕事術」は今までの本に比べると大分良い構成に仕上がっています。

ただ、やはりデザイン思考は実践から教訓を得るのが一番早いはずなので、この本を読んで、エッセンスやスタンスを学び、あまり方法論に囚われすぎずに実際に何回かプロジェクトを回してみるのが1番良い方法だと思っています。

『デザイン思考の道具箱』

合政策学部2年 池田 俊

書籍:『デザイン思考の道具箱』


◆課題設定までの方法論

 本書では、課題設定やフィールドワーク、ユーザーテストなど創造のプロセスにおける一連のアクションをそれぞれ「道具」と定義し、創造の方法論を「道具箱」に見立てている。

まず、本書で描かれる「創造のプロセス」について要約する。(まゆ子さんが詳細を書かれているので詳細は省略)

<プロセスの上流>

Step1:哲学・ビジョン構築(課題設定)

Step2:技術の棚卸し・フィールドワーク

Step3:コンセプト/モデル策定(プロトタイピング)

Step4:デザイン

<プロセスの下流>

Step5:実証(ユーザーテスト)

Step6:ビジネスモデル策定

Step7:オペレーション

 この一連の流れが「モノを作る上でのガイドライン」であり、正しい順序で一つ一つの道具を使わなければプロセスが機能しない、と述べられている。しかし以前KDPのメーリングリストでも取り上げたように、私はここに疑問を感じてしまう。1回目のCase Studyを通して考えると、初めに哲学・ビジョンを仮設定しても、具体的な方向性はフィールドワークとブレストを繰り返すことで幾様にも広がりを見せ、そこで初めて明確な哲学・ビジョンの策定が行われる。

 1回目のCase Studyの中間発表でも議論になったが、重要なのはプロセスの順序を守ることではなく、思考レベルと経験レベルの両方の領域を、どちらかに偏る事無くバランス良く蓄積することである。ただ、何度も行き来する必要は必ずしも無いと思う。思考と経験の両方において十分な考察と結果を得られれば、その回数や順序は重要ではないのではないだろうか。


「経験の拡大」の方法論

○エスノメソドロジー(現象学的社会学)

 顧客の意見を聞いても顧客中心の意見にならない、この一言にはとても共感出来た。ユーザーにとって使い勝手の悪いものがあったとしても、無意識のうちに身体的に適応してしまっている場合が多い。それ故、質問されたユーザーは普段具体的に意識していることを一般化することでしか応えられない。モノづくりのヒントは「使い手の無意識なニーズ/ウォンツ」である。これを明確に把握する為に「経験の拡大」というプロセスを活用することになる。

 ここで、本書ではエスノメソドロジー(現象学的社会学)という方法論が採用されている。人と人との相互行為(インタラクション)を重要視するもので、リサーチの対象となる人たちとともに同じ時間を過ごすことで彼らの世界を内部から知ろうとする「参与観察」の方法論である。プロダクトに関係する人たちを「師匠」と位置づけ、それに自分たちが「弟子」入りし、数時間観察を行うというもの。


○1回目Case Studyで行ったフィールドワークとの比較

 この方法論は一回目のCase Studyで私たちが実践したフィールドワーク(街を歩き、対象となるプロダクトを観察し、関係者にヒアリングを行う)とは方法論が若干異なる。私たちはヒアリングを多用した感じが否めないが、それでも様々な情報を得ると共に、どういった要素がそのプロダクトに求められているのかを或る程度把握することが出来た。しかし本書では、ユーザーとの関係構築において「調査者/被調査者」「エキスパート/新人」など複数の在り方があったとしても、ニーズとウォンツを区別して顧客の求めるものをデザイン出来るのは師匠/弟子モデルだけ、と述べられている。ヒアリングに頼るだけでは、潜在的なニーズ/ウォンツというものは出てこないのかもしれない。可能であれば、この参与観察という手法をぜひ一度試してみたいと思った。


◆総括

 総じて見て、幅広い分野におけるデザイン思考というよりは、筆者独自の活動分野におけるデザイン思考といった感が否めなく、敷居の高さを感じた。方法論がステップごとに明確に説明されているが、KDPでの活動にそれをそのまま取り入れても機能しないのではと思う部分が多くあった(特に課題設定のプロセス)。

 本書における方法論に対して疑問を投げかけられたのは、まさに実際に並行してケーススタディを行いながら読み込んだが故だと思う。デザイン思考の入門書としてだけでなく、記された方法論自体に疑問を投げかけながらKDP独自のそれを模索することが出来た点でも大変勉強になった。

 今後は、疑問を持った方法論に対する漠然とした自分たちの意見、その不確実性をより深化し、具体的な「KDPの方法論」としてまとめ上げていきたい。

デザイン思考と仮説検定

デザイン思考の仕事術について私が感じたことについてここに記していきたいと思う。

デザイン思考とは、問題に対する理解→観察→評価→改良→実現のサイクルによって商品やサービスを生み出すことだと考えている。



一方で私のゼミでは仮説検証型の研究を行っており、これは問題分析→仮説→検証→評価→実証のサイクルによって問題を分析している。


デザイン思考と仮説検証の相違点について述べていくのがおもしろいと考えたので記していきたいと思う。

デザイン思考型と仮説検証型の大きな違いについては問題分析へのアプローチの仕方ではないかと考える。デザイン思考をする際において最も大事なことは外に出ることで問題を分析するということである。視覚的に問題を分析することによって、室内の議論による机上の空論を可能な限りにゼロに近づけていく。外部化することによってビジュアル的に分かりやすくあらわしていく。こうすることによって今までの思考方法では思いつかなかった新しい価値が生まれていく。これがデザイン思考のメリットだと私は考えている。




 一方で仮説検証型の問題分析はデータによる数値での検証がベースになっている。文章や写真などあらゆるものをデータ化し数学的な検証を試みていく。それは、時に机上の空論となりうる可能性を大いにはらんでいる。が、論理的に示すことができること、数値的に明らかになるために矛盾が生まれないというメリットがある。

 


一方で二つには似ているところも多いに含まれていると考えられる。それは問題に対して俯瞰といった方法で問題の検証を試みる点である。デザイン思考型は視覚的に、仮説検証型はデータを俯瞰することによって問題の根源を突き止め解決方法を導き出していくことである。二つに重要なことは既存の概念も重視することと新しい視点を取り入れていくことだとだと考えられる。

 


またもう一つの共通点は頭の中だけで考えるのではなく、外部化して組み立てることである。ふたつとも形は違えど分かりやすく外部化して考えていく。この点でも二つには共通点を見出すことができる。

 このように二つの手法は似ている点も多々多くあり、学んで生かしていきたいことが多く存在している。しかし、片方に偏ることは考えを狭めることにつながるであろう。実生活や社会に出るうえでもどちらかに偏らないように数値と観察両方から支店を持つことが大事なのではないだろうか。